食人姫
道を歩いて集会所の前、中からは、今から何が起こるかわかっていない人達の、楽しそうな笑い声が聞こえている。


「灯油を集会所にかけて、火をつければ……」


谷の人間全員が焼け死ぬかな。


いや、もしかすると、その前に異変に気付いて、皆外に飛び出してくるかもしれない。


麻里絵の肉を食った谷の人間全員を殺すにはどうすれば良い?


巫女達の、これ以上恨みを重ねないように谷の人間を食うという、矛盾した考えに支配されている。


平穏に生きるなら、谷の風習に従うべきだろうけど。


麻里絵の肉を食う為に、哲也達を殺したやつらを許せるほど、俺は大人じゃなかった。


ポリタンクのキャップを開けて、騒がしい集会所に近付こうとしたその時だった。


















「待って。それを集会所の周りにまいて」

















突然背後から聞こえた声に、俺はその足を止めた。


「ひっ!」


由奈の小さな悲鳴。


だとすると、さっきの声は由奈じゃない。


慌てて振り返ってみると、そこにいたのは……。


「実香……」


思わず呟いた俺の目に映ったのは、身体の半分が闇に侵食されているかのような実香の姿だった。
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