食人姫
じわじわと、闇が身体を蝕んで行く……。


そんな印象を受けるその姿に、俺は息を飲んだ。


「しゅ、集会所の周りにまけって……それじゃあ集会所は燃えないんじゃないのか?」


印象としては、直接灯油をかけて火をつけた方が燃えると思うんだけど、どうなんだ?


「大丈夫だから。私の言う通りにして。皆、それを望んでるから」


実香の言葉は、俺の不安を見透かしているようで、なぜだか素直に従おうと思える。


「だ、大輔君……なに、これ……」


初めて実香を見た由奈は、突然現れたそれに驚いているようだ。


「大丈夫、小谷実香。先代の巫女だから」


恐怖している由奈にそう言い、俺はポリタンクを傾けながら、集会所の周りを歩き始めた。


ビチャビチャと音を立てて、地面に落ちた灯油が弾ける。


さすがに一人で幽霊と一緒にいるのは嫌なのだろう。


由奈も俺の後を追いかけて来た。


「お、置いてかないでよ。な、なんで大輔君は平気で幽霊と話をしてるのよ」


「……わからない。でも、実香のおかげで、この谷の儀式の事がわかったんだ。俺達の味方だ」


……多分。


それは、立場によって敵か味方かわかれているだけなんだろうな。


賛成派と反対派のように。
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