食人姫
集会所の周りを囲む、生け垣の内側をぐるりと周り、ポリタンク二つ分の灯油をまいた俺は実香の所に戻った。


「そう、それで良い。火をつけたら、後は私達に任せて」


実香の身体の侵食は、思ったよりも進みが速くて、もう、蝕まれていない側の目まで闇に染まっている。


本当に……大丈夫なのか?


味方だと由奈には言ったものの、この姿を見ると、それすらも不安に思えてくる。


それでも、ここまで来たのならやるしかない。


家を出る前に持って来たライターをポケットから取り出して、グッと握り締めた。


火が上がったら、俺がする事はもうない。


後は、実香に任せる。


「ほ、本当にやるの?やっぱりやめようよ。集会所の中には大輔君のお父さんやお母さんだって……」


「由奈の父さんや母さんもいるよな。でもな、皆、哲也や光を助けようとしなかったんだよ。そんな大人達なんて……」


そこから先は言えなかった。


二人を助けなかったのは俺も同じだ。


そんな大人達なんて死ねば良い。


その言葉は全て俺に返ってくるわけで、俺だってのうのうと生きていて良いはずがないから。


その罪を全て背負う覚悟で、ライターに火を灯した。
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