食人姫
この状況になって、ようやく集会所の中にいた人達も気付いたようで、楽しそうだった声に悲鳴が混じり始める。


「な、なんだこれ!?火事だ!」


「逃げろ!焼け死ぬぞ!」


火の中がどうなっているか分からないけれど、パニックになっている事はわかる。


そして、この火の勢いからは逃れられないであろうという事も。


天を貫くほど高く上がった火柱が、まるで生き物のようにその身をよじらせてうねる。


炎の竜巻。


もう、そうとしか表現のしようがない。


ごうごうと音を立てて、集会所を飲み込んだ。


中からは、もう楽しげな声は一切聞こえない。


自分達が置かれた状況に混乱し、絶望する声が響く。


老人も、大人も、子供達ですらも容赦なく焼き尽くすその炎を、俺はただ見ている事しか出来なかった。


「た、助け……熱い!」


「外に出るな!焼け死ぬぞ!」


「だったらどうすれば良いのよ!!助けて!」


外は地獄、中も地獄、助かる道はない。


「哲也も光も!麻里絵も助けてなんて言わなかったぞ!!何なんだよお前らは!自分が助かる為なら、人が死ぬのは良いのかよ!!」


恐らく聞こえてなんていないだろうけど、俺は自分の思いを、喉が裂けるかと思うような声で叫んだ。
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