食人姫
それからしばらくして、中から聞こえる声が小さくなり始めた。


多くの人が死んだのだろう。


その中には、俺の父さんや母さん、源太や直人達だっていただろう。


これは俺のエゴでしかないけど、谷の儀式をこの先ずっと続けるくらいなら、皆で死んで終わらせよう。


いや、こんな儀式をしなければ生きていけないのなら、それも運命だと思えたから。


麻里絵を助けるという思いから始まった救出劇は、誰も救えない、谷の人間を皆殺しにするという望まない結果に終わってしまった。


誰にもわかってもらえなくても良い。


希望が絶望に変わった時から、俺と谷の大人達との間には、大きな隔たりがあったのだから。


谷の為、未来の為と、簡単には割り切れるほど、大人じゃなかったんだ。


集会所に燃え移り、さらに勢いを増した炎を見詰めて、俺はこの無意味な帰郷を思い出していた。


と、その時だった。
















「だ、誰じゃああああっ!!火を放ったバカ野郎は!!」














怒りの声を上げ、燃え盛る炎の中から大柄の男が飛び出して来たのは。


身を包んでいた毛布を脱ぎ捨て、それでも所々焼けている姿を晒して……哲也の親父さんが俺を睨み付けた。
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