食人姫
谷の異変
ドンドンドン……。
ドンドンドン……。
光が布団に潜り込んでから、どれくらいの時間が流れただろう。
太鼓を叩いているような、奇妙な音で目を覚ました俺は、いつもとは違う天井をぼんやりと眺めながら、大きくあくびをした。
仏間で寝ていたのが効果があったのかは分からないけれど、生きてるって事はあの化け物に食われなくて済んだという事だ。
それにしても……身体が重いな。
光の腕が胸に乗っていて、息苦しい。
「おい、光。苦しいんだよ……」
その腕を払い除けようとすると……俺の右側ではなく、左側に落ちたのだ。
……ん?
光は右側に寝ていたのに、どうして左側に……と、不思議に思いながら左側を見ると、そこには由奈が、俺にピタリと身体を寄せて布団の中に入っていたのだ。
そして、腕が落ちた事で目が覚めたのだろう。
ゆっくりと瞼を開いて、俺の顔をジッと見たかと思うと……。
「な、何で私の布団に入ってんのよ!この変態!!」
そう叫びながら飛び起きて、寝ている俺の腹に思い切り拳を叩き付けたのだ。
「ぐえっ!ご、誤解……」
「ドスケベ!変態!」
反論の一つも出来ずに、俺はただ殴られ続けた。