食人姫
光の家を出て、道路で周囲を見渡すと……そこには異様な光景が広がっていた。


小さな太鼓のような、鞨鼓(かっこ)と呼ばれるものを脇に抱えて打ち鳴らし、昨日化け物が現れた田んぼの周りを歩く人に、お経のような呪文を唱えている人。


そして、昨日はなかった意味のわからない綱が、至る所に張られていたのだ。


「何だよこれ……気味わるい」


正直な感想はそれだった。


儀式だから、もっと神聖というか、少なくとも何か特別な感情が湧き上がってくるかと思ったけど……何かが違う気がする。


「33年に一度の事だからね、大輔が化け物に襲われたって知って、急いで準備したんだよ。日の出から外は騒がしかったよ?」


「そうなのか。でもこれじゃあ儀式って言うより……」


何か、結界を張っているような気さえする。


化け物よけである事は間違いないだろうけど、それなら儀式を済ませた大人や、夜道を子供だけで歩かなければ良いだけじゃないのか。


まあ、儀式に関しては何も知らないから、俺は何も言えないんだけど。


「儀式って言うより?大輔、僕を連れ出したのは由奈が邪魔だったからじゃないの?」


フフッと笑って、俺の腕を掴んだ光が身体を寄せて来た。
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