食人姫
脱衣所にいる光に、反発するように出した声。


その儀式をすれば、きっとあの化け物は消えて33年間は安全という事なのだろう。


だけど、その代償は麻里絵の命。


そして儀式をしなければ、きっと谷の人間は襲われる。


儀式を済ませていない人達は全員食われて、この谷はいずれ滅びる。


多くの為に一人を犠牲にする……そうやって1000年間、この谷の人達は生活してきたのだ。


「とにかく、皆で考えよう。ほら、歴史を遡れば、王様が死んだ時、人の代わりに人形を埋めたりしてるわけだからさ、麻里絵が死なない方法を皆で考えよう」


精一杯、俺を気遣ってくれているのだろう。


何も光が悪いわけじゃない。


今まで黙っていたのも、誰かを気遣っての事なんだろう。


人の事を考えている光と比べて、俺は誰も何も教えてくれなかったと駄々をこねているだけだ。


そうだよ、儀式は明日なんだから、まだなんとかなるかもしれない。


「光、俺は麻里絵を助けたい。手伝ってくれるんだよな?」


シャワーを止め、風呂場のドアを開けながら、強い気持ちで光を見ると、嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。


谷の儀式……化け物……全てを敵に回してでも麻里絵を助けたかったから。
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