食人姫
バスが走る事1時間と10分。


途中の集落で老夫婦を降ろし、谷にやって来るまで哲也が一人で喋り続けていた。


それはそれで、聞いてる分には面白かったから良いんだけど、俺の頭の中は麻里絵の事ばかり。


こうして皆と、昔みたいに話が出来るんだ。


もしかすると麻里絵とも話せるんじゃないかと期待だけが膨らんでいた。


そして終点、谷の入り口でバスが停まり、俺は久し振りに谷の土を踏み締めた。


「あー……この匂い。やっぱ街とは違うよな」


一番最後にバスから降りて、大きく伸びをした俺に、皆が冷たい視線を向ける。


な、なんだよ……俺、何かおかしな事言ったか?


新鮮な空気だって言いたかったのに、もしかして都会者アピールに聞こえたとか?


「おい、大輔。お前に迎えが来てるぞ。都会者はモテるねぇ。俺も大輔と同じ高校に行けば良かったぜ」


そう言った哲也が、親指を立ててクイッと指した方には……。








精一杯のおめかしをしたのだろう。


白いワンピースを着た麻里絵が、同級生の由奈と一緒に道の真ん中に立っていたのだ。


でも、二人だけではなかった。


その奥の木の陰に、誰かが睨み付けるような視線をこちらに向けていたのだ。
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