食人姫
取り乱してしまうかと思ったけど、未来も哲也もそれほど大騒ぎはせず。


それよりも、何が起こっているのか分からないという気持ちの方が強いのだろう。


谷の大人達は、近くの家から冷静に梯子を持って来て、放心状態の俺達を無視するように勝浩を下ろそうとしている。


まるで「お前達もこの程度で驚くな」と言わんばかりに。


この時俺達は何を考えていただろう。


大人達の手によって、事務的に鳥居から下ろされる勝浩を見て。


「おう、お前らもこうなりたくなかったら、儀式が終わるまで大人しくしてるんだぞ。化け物相手じゃ死んじまうだけだからな」


集まった大人の中から一人、俺達の所にやって来て、言い聞かせるようにそう言った。


勝浩の姿に衝撃を受けたのはもちろんだけど、それだけじゃない。


谷の子供が死んだというのに、大騒ぎをしているわけでもない大人達に。


勝浩は何かを手掛かりを見付けてこうなってしまったのか、それとも、ただ単に化け物に食われてしまっただけなのか。


何もかもが分からなくて、俺達は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。


あの哲也でさえ、涙を流しているだけで、近付けないでいる。


この谷で起こる事は、俺達にはどうする事も出来ないと、現実を突き付けられているようで……。
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