食人姫
そうは言ったものの、俺の中では化け物が食ったのであってくれという思いはあった。


もしも違うのであれば、一体誰があんな残酷な事を出来るというのか。


俺が見付けたノートにも、1000年前からの儀式だと書いてあったし、疑うべき部分はないはずだ。


「……悩んででも答えは出ないよね。由奈、もう一度ノートを見せてくれないかな?何か……変な感じがしたんだけど」


俺がそう考えていた矢先、直人がそう言った。


ノートに、変なところなんてないはずだろ?


俺は実際に化け物を見たし、あの文章を読んでいても情景が頭の中に浮かんでたのに。


「あ、うん。はい」


立て続けに色んな事が起こって、気が滅入っているようだな。


由奈にいつものような元気が全くない。


そんな由奈からノートを受け取った直人が、例のページを開いて考え込む。


俺と哲也が戻ってくるまでに一度ノートを見ていたのだろう。


うーんと唸っている直人の姿は、何か期待が持てるような気がする。


「これ……さ、やっぱりおかしくない?どうして山賊が貴族だか呪い師だかを殺したのに、埋葬した谷の人を食う為に現れるんだろ」


それは俺も思ったけど、化け物が言った事が全て、「憎い、この地の者が」という言葉に込められているのだろう。
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