【完】山崎さんちのすすむくん



鼻から小豆を防ぐ為、人の出払った監察方の部屋で暫く休んだあと、腹ごなしも兼ねて一人町へ出た。


久々にのんびり歩く気がする京の通り。


普段任務の一環として彷徨いている分、今まで例え非番であってもあまり町に出ることはなかった。


出ても貸し本屋に行くくらいで、あとは部屋で本を読んで一日を過ごすことが多い。


そうすれば知識も増えるし、無闇に隊士と馴れ合わない、と言う俺なりの監察としての在り方においても都合が良かった。


しかしながら、こうしてうららかな日差しの下をぶらりと歩くのもやはり中々気持ち良い。


まだまだ冷たい空気の中、時折甘やかに香る梅が鼻を擽り、春を感じさせる。


もたれた胃も少しは軽くなると言うものだ。










戸口直ぐの板の間の端っこに腰掛け待つこと暫く。


「お待たせしましたっ!!」


足音を鳴らし、奥からやって来たそれは変わらず元気だ。


「ごめんなさい、ちょっとお部屋の片付けが終わんなくて」

「や、仕事やねんから気にせんでええ。それに今日は俺も休みやしな」

「はい……あ、でも女将さんが正月もうちに帰ってへんねんしちょっと出てきてもいいよーって言ってくれました!」


満面の笑みで心底嬉しそうにする夕美につられるように笑う。


「ほなそこらで茶でも飲むか」



そうして暖簾をくぐった近所の茶屋。



「本当に烝さんはいーんですか?」


隣に座る夕美が首を傾げる、が。


「うん……生憎腹は減っとらんくてな。俺は気にせんでえーし好きに食うてくれ……」


その手にあるのは汁粉の椀。


えづかんかった俺を褒めてやりたい。


胃から上がってくる小豆感を必死に堪えて顔を逸らしていれば、はふはふと餅を飲み込んだ夕美が口を開いた。


「大阪はどうでした?」
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