【完】山崎さんちのすすむくん
漸く食べ終えた夕美の横でずずずと茶を啜る。
「言ってくれたら違うのにしたのにー」
「……食いたいもん食うんが一番かなって思ってんもん」
こーゆー機会はあんまとってやれんし。
……それとも林五郎が連れてったりしとるんやろか?
あいつ俺には何も言いよらんからな……。
「なーあれから林五郎はどうや? 変に押し掛けて仕事の邪魔してへんか? ってか口拭き」
「む……有り難うございます。えと、りんちゃんとは一回だけ会いましたけどその辺は大丈夫ですよ。文にお休みの日を書いたら合わせて来てくれてたんで」
漸く顔を向ければ未だに汚れているそいつの口。
有無を言わさず懐紙でそれを拭うと、そこから意外な言葉が飛び出した。
「……文?」
「はい! たまに書いてくれるんで交換してるんです。お陰で字を書く練習になってますよー」
へへーん! と何やら得意気に二本の指を立てる夕美のそれは今一つよくわからないけれど。
りんちゃん……意外と積極的やん。
そーいや今まであいつの浮いた話とか聞いたことあらへんなぁ。
昔っから琴尾とよーうち来とったうえに、俺らが一緒になってからも仕事の合間に京まで来てたし。
えー年してどんなけ姉ちゃん好っきゃねんて心配やったけど……。
「何笑ってるんですか?」
「や、かいらしなー思て」
「……へっ!?」
もー照れ屋さんなんやからーりんちゃんたらっ。
どんなん書いてんねやろ……発句とか詠んでたり?
や、あいつにはんな高尚な趣味はないな。貸本屋で働いとった時も滑稽本やら草双紙やらばっかやったし。
やーん、気になるわー!!
でも、まぁ兄貴としてちぃと安心したわ。あいつもちゃんと男やってんなぁ。
「……ん? 顔赤ぅなっとんで、大丈夫か?」
「大丈夫ですっ! もー烝さん変なこと言わないでくださいねっ!」
「へ? す、すまん?」
……何で俺怒られてんねやろ。