【完】山崎さんちのすすむくん


「あ、これ約束の土産や」


慌てて取り出した包みを手渡せば、夕美の顔はパッと輝く。


「有り難うございますっ」


嬉しそうに両の手で胸に抱えるその姿を見れれば、買ってきた甲斐があると言うものだ。


ちゅうか、まるきしさっきの林五郎と一緒やん。


つい頬が緩むのはあいつらの幼かった頃を思い出すからだろうか。


可愛い弟に……妹。


確かに見ているだけで心が和む。


今更ながら少しだけ、あの変態お兄の気持ちがわかる気がした。


ま、布団に潜り込もうとは思わんがな。目ぇ覚めて林五郎と同衾しとったら引くわー……。


つい想像してしまった気色の悪い図にふっと顔をひきつらせ、出入口から差し込む明かりに目をやった。


「ほな戻ろか、そろそろ店も忙しなる頃合いやろ」

「あ、はい」


別れ際、いつもこれは寂しそうに眉を下げる。


その顔を見ると多少後ろ髪を引かれてしまうが、だからと言ってダラダラと過ごす訳にもいかない。


「また来るて」


既に決まり文句のようになっている言葉を溢し頭を撫でると、夕美は諦めたように袂から何かを取り出した。


「今日のお礼です」


ぎゅっと握らされた不思議な手触りのそれは……。


「ちょこやんっ!」


わーい! 久々ー!! いつ食べよー?


…………て!


いかん! つい嬉しゅうてころっと喜び全開にっ!


はたと我に返れば夕美がきょとんと目を丸くしていて。


「ぷっ、烝さんも意外と子供っぽいですねっ」


わ、笑われてもーた……!


ちゅうかこいつに子供っぽいとか言われたらお仕舞いや。


あかん! あかんで俺! もっと気ぃ引き締めやなあかんっ!


「じゃー帰りましょっか烝さんっ。そんなに喜んでくれるならまたチョコ用意しときますね!」


内心悶える俺の手を引いて夕美はにこやかに立ち上がる。


……まぁでも夕美が笑て戻れるんやったら……えーか。


なんて、ほだされるのは仕方ない。


「ん」


だって今日は非番やしな。
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