【完】山崎さんちのすすむくん
タンッ
固められたように動かない青年に、俺は軽やかに胴を狙ってみた。
と同時に向こうの爪先が床を蹴って。
空を切った俺の胴を狙いくる竹刀に、すかさず間合いを取った。
斎藤くんの眉が僅かに動く。
入る思とったな……せやけど早さなら俺かて負けん。
基本的に斎藤くんは待ち剣。
返し技や抜き技は助勤の中でも群を抜いている。
だからこそ今ので一本が取れなかったのが悔しかったんだろう。
ダンッ
僅かに鋭さを増した光を宿し、今度は直ぐ様俺の間合いに飛び込んできた。
……っしゃ、来た!
早さを強みとする彼が最も得意とするのは突き。
斬るよりも動作の少ない突きは相手を素早く攻撃出来る。
故にそれらを併せ持つ斎藤くんの突きは無敵と言われている。
けどっ、俺のが早い!
その剣先が触れるより早く、俺は後ろへと飛び退く。
こんまま打ち込めば……!
と次の一手を頭に浮かべた時だった。
「っ!?」
何故か届く筈のない剣先が俺の胴を突いた。
……心の臓を的確に。
予期していなかった衝撃に不覚にもそのまま後ろへと倒れ込む。
けれど目だけはしっかりとそれを捉えていた。
斎藤くんが左手一本で竹刀を握っていたのを。
「……勝負あり、ですね」
ほんの僅かにその口角が上がるのを。
「……参りました」
負けたんは悔しいけど……面白いもんを見れたかもしれん。