【完】山崎さんちのすすむくん
斎藤くんが立ち位置を戻す前に俺も素早く立ち上がり、礼を交わす。
どちらからともなく視線を合わせると、珍しく斎藤くんから口を開いた。
「まだ未完成故、本当は見せたくなかったのですが」
何が、なんて聞くまでもない。
「片手突きとは驚きました。あれで未完成ですか」
「……たまに狙いがずれるので。今日はたまたま命中しただけですよ」
そのたまにっちゅうんはほんまにたまに、なんやろな。
謙遜にしても本音にしても、その完璧主義は尊敬に値するわ。
早朝一人で稽古しとったんはこれか。
真剣では居合いを得意とする斎藤くんがこれを実践で使うようになれば、抜刀で仕留められなくとも優位に立てるだろう。
間違いなくこの人は更に強くなる。
末恐ろしいお人やで……。
心中密かに感嘆しつつ言葉を紡ぐ。
「成る程。しかし左手というのは良いですね、相手の意表をつけますし、何より利き手本来の力と精度が出ます」
にこりと笑って言えば、斎藤くんは僅かに眉を寄せた。
そらそやろな、こん人は生活の全てを右利きと変わらずして過ごしてるんやから。
「見ていればわかりますよ」
まぁ気ぃ付いてるんは俺くらいやと思うけど。
「……敵いませんね」
「斎藤助勤にそう仰って頂けるのでしたら幸いです」
目を逸らし、はぁと嘆息した彼に負けた悔しさも紛れると言うものだ。
「……本当に、あれをかわすとは思いませんでした。貴方、一体何者です?」