【完】山崎さんちのすすむくん
「何処て、三条木屋町や。お前さん拾たとこからそう離れてないで?」
「冗談……ですよね? ここは映画村ですか? 何かの撮影ですか? これ、全部セットなんですよねっ!?」
栄華村? せっと? 雪駄の親戚か?
ひきつった笑いを浮かべた彼女は何かを懇願するかのような瞳で俺を見ている。
この一瞬で何があったんや……?
「……すまん、なんやようわからんけど今の俺は至って真面目やで?」
「いやいやいや有り得ませんからっ! そんな設定テレビか本か夢の中だけですからっ! は! もしかしてこれは夢っ!? 夢なんでしょうかっ?」
「や、ちょっ、お夕美はん? 一旦落ち着こか?」
「今っ!!!!」
怒涛の如く意味不明な言葉をつらつらと並べる彼女の勢いに押されそうになりながらも声を掛ければ、突然の大声に伸ばしかけた手が思わず固まる。
「……今、何年何月何日ですか?」
俯いたまま静かに呟かれた言葉。
その表情は窺い知れない。
「あ、文久三年十二月十三日ですけど」
「ぶんきゅー? ……十二月!?」
「は、はいっ! そーですっ」
……って、何で俺がですます調で話さなあかんねん。
さっきより落ち着いたとはいえ夕美は顎に手を置いて何やらぶつぶつと独りごちている。
「なぁ夕美? どないしてん?」
「烝さん」
漸く顔をあげた彼女は苦笑いを浮かべ、とんでもない事を言い放った。
「私、帰れなくなっちゃったかも……しれません」