【完】山崎さんちのすすむくん
念の為店に戻ってみるも、やはりまだ姿はなく。
俺から預かったというともあってか、申し訳なさそうにする人の良い主人と別れ、提灯片手にぬかるむ通りへと足を踏み出した。
月もない闇に覆われた町は、俺ですら彷徨くのは難しい。
加えてこの激しい雨だ。
傘を持たずに出たという夕美は恐らく何処かで雨宿りでもしている筈。
間違っても一年前のようなことにはなっていない。
絶対にや……!
そう言い聞かせてみても、四条にいない夕美がどこにいるかなんて想像もつかない。
もしやと覗いた四条の長屋にも人のいた形跡はなく。
焦る気持ちだけが大きく膨らんでいく。
……あかん、考え……考えや俺! 無駄に彷徨いたかてあかん。
土地勘のないあいつが一人で遠くに行くなんてことは多分ない筈や。
ほなどこに……?
跳ねる泥水に視線を落とし、思考を巡らせる。
まるであの時を繰り返しているかのような感覚に、知らず知らず口の中で血の味が広がっていた。
そんな何とも言えない苦味に、ふと頭にある場所が浮かんだ。
……もしかして三条大橋、か?
あれを拾った場所。
あれが此処に来るきっかけとなった場所。
そして……──
「っ!」
脳裏に浮かんだあの時の記憶を振り払い、急く気持ちのまま俺は早足で通りを上がって行った。