【完】山崎さんちのすすむくん
「そういや烝さん、今日お仕事は?」
食べ終わったところで、夕美が思い出したように口を開く。
流石に俺まで女中さん達の部屋に上がり込む訳にもいかず、空いていた客間で夕餉を頂き、今に至るのだが。
その質問の答えに少し、迷う。
こいつはきっと気を使うだろうから。
……でも林五郎から伝わるかもしれんし、黙っとくんも変やんなぁ。
やっぱりここはさらっと言うべきやな。
「ん、今日は休みやってん。琴尾の命日でな、ちと墓参りに行ってきた」
「ぁ……」
笑顔で、極力何でもないように言ったつもりだったのだが、案の定夕美は気不味そうに視線を泳がせる。
それに苦笑しつつ、その額を指で弾いた。
「せやから気にしなて。ええ区切りやってん」
……そう、区切りや。
皆の方がようわかっとる。やからこそあんな風に俺を……琴尾を、笑わせてくれたんや。
そやのに最後にまた何でこんな思いせなあかんねんて思てたけど……。
「今日、お前さんに会うて……良かったんかもしれんな」
落ち着いた今だからこそ、思う。
閉じ込めて、見ないようにしていた忌まわしい記憶。
それを無理矢理思い出させるような出来事だったけれど、最後の最後、夕美は生きていた。
あの時とは違った。
今度こそ、生きててくれたことでどこか……救われた気がするんや。
記憶の底に沈みかけた俺を、今に引き戻してくれた夕美の温もり。
相変わらずの緊張感のなさには呆れるけど。
それでも、それだからこそ。
俺は救われた気がする。