【完】山崎さんちのすすむくん
凪
元治元年 四月八日
曇り
西国の動向を窺う為に奉幣使(*)の一行に紛れ、備州へと潜入していた松山幾之助が六日、尊皇攘夷派である岡元太郎らの手によって殺されたとの知らせが入ってきた。
その首は一本松の御成橋に梟首(晒し首)されたと言う。
備州へ向かっていたのが俺だったならば、そうなっていたのもまた俺だったのかもしれない。
敵方の懐に忍び込むというのは即ちそういうことである。
夜、土方副長はいつものように一人黙って猪口を傾けていた。
普段は殆ど飲まれない酒を、隊内で誰かが死んだ時だけ進んで口にされる。
それは死者への手向け。
鬼と呼ばれるあのお方なりの弔いなのだ。
きっと俺が死んだ時も、あのお方は同じように俺と酒を酌み交わしてくれるのだろう。
ヘマしやがって、と笑いながら。
そうさせない為にも、俺は日々精進に努めなければならない。
*天皇の命により神社などに幣帛(神への捧げ物)を奉納する勅使