【完】山崎さんちのすすむくん
……、俺?
至極滑らかに投げ掛けられたその質問に一瞬固まる。
その僅かな間を読んでいたかのように、山南総長は楽しげに肩を竦めた。
「最近私の部屋に顔を出さなくなったでしょう? 以前は非番の度によく本を借りに来ていたのに、どうしたのかと思っていたのですよ」
確かに、このところ以前程本を読まなくなった。
と言うか読む暇があまりない。
沖田くんに夕美、相手をせがんでくる童が二人もいるから。
子守りか。
と思いつつも意外と嫌でない自分もいて。
一年前では有り得ないそんな変化を指摘されたようで、どこかこそばゆい。
「すみません、少し町へ出ることが増えまして中々本を読む時間が取れなくて」
思わず苦笑いを浮かべる俺に、総長はくすりと目を細める。
「ふふ、それこそ謝ることではありませんよ。書物を読むのも勿論結構ですが、誰かと触れ合うのもまた大切ですからね」
それは俺を見ているようでどこか違うところを見ているような、そんな目。
一点の黒さもなく、一層柔らかく思えるその瞳に、この人にも何か思うところがあるのだろうか、なんてつい勘ぐりそうになる。
「まぁまた読みたくなったらいつでも来てください」
けれど、にこやかに出された終了の合図に俺もまた即座に思考を停止させた。
「はい、有り難うございます」
そこは俺の気にするとこやない。
ほな仕事に戻るか。
それではと一礼し、爪先を立てた時。
曲がった廊下の奥から軽やかに小走りする足音が聞こえてきた。
こん音は……。