【完】山崎さんちのすすむくん
近付いてきた足音は、深い藍の色を纏って現れた。
瞬間、此方を映したその奥二重の双眸がはっと開かれる。
「おや、りんごくん、そんなに急いでどうしたんです?」
そんな林五郎に声をかけたのは山南副長だった。
「あ、やそ……山野と出かけるんです」
「そうですか、楽しんできてください。しかし廊下はあまり走らないように。危ないですからね」
「あ……はい、すみません。では失礼します」
総長に諭された林五郎は苦笑いを浮かべ、頭を下げるとまた歩き出した。
隣に座る俺の方はちらりとも見ないまま。
……やっぱり可笑しいよなぁ。
どうもこの一月程避けられている気がする。
こうしてたまに顔を合わしてもあからさまに目を逸らすし、話しかけても妙に素っ気ない返事しか返ってこない。
俺なんかしたか? ……や、そんな記憶はないんやけどなぁ。
今もあえて俺のいる方から目を背けているのかのような林五郎は、視線を障子側へと向けている。
「あ、林」
と声をかけた時にはもう既に遅かった。
「ぐぇっ!?」
「うわ!?」
踏みつけられた原田くんが潰れた蛙のような声を上げて身を捩り。
足元が突然動いた林五郎はそのまま前へと倒れ込む。
その結果、
「「ぐぇっ」」
潰れた蛙の合唱が起きた。