【完】山崎さんちのすすむくん

近付いてきた足音は、深い藍の色を纏って現れた。


瞬間、此方を映したその奥二重の双眸がはっと開かれる。


「おや、りんごくん、そんなに急いでどうしたんです?」


そんな林五郎に声をかけたのは山南副長だった。


「あ、やそ……山野と出かけるんです」

「そうですか、楽しんできてください。しかし廊下はあまり走らないように。危ないですからね」

「あ……はい、すみません。では失礼します」


総長に諭された林五郎は苦笑いを浮かべ、頭を下げるとまた歩き出した。


隣に座る俺の方はちらりとも見ないまま。


……やっぱり可笑しいよなぁ。


どうもこの一月程避けられている気がする。


こうしてたまに顔を合わしてもあからさまに目を逸らすし、話しかけても妙に素っ気ない返事しか返ってこない。


俺なんかしたか? ……や、そんな記憶はないんやけどなぁ。


今もあえて俺のいる方から目を背けているのかのような林五郎は、視線を障子側へと向けている。


「あ、林」


と声をかけた時にはもう既に遅かった。


「ぐぇっ!?」

「うわ!?」


踏みつけられた原田くんが潰れた蛙のような声を上げて身を捩り。


足元が突然動いた林五郎はそのまま前へと倒れ込む。


その結果、


「「ぐぇっ」」


潰れた蛙の合唱が起きた。
< 149 / 496 >

この作品をシェア

pagetop