【完】山崎さんちのすすむくん
「珍しいな、お前が此処で仕事以外の話を持ち出すのは。言い淀むのも初めて聞いた」
くっと楽しそうに口角をあげ、土方副長は煙草盆から煙管を手に取った。
「……言ってみろ」
静かに燻り始めたそれをゆっくりと肺に吸い、目を細めて旨そうに吐き出すその顔は行灯の光と影に彩られ、
男の俺ですら息を飲む色香を放っている。
……年下やねんけど。
ひゅるりと冷たい風が胸中を吹き抜けるのを感じつつ俺は覚悟を決め、口を開いた。
「迷い子を一人、保護しました」
「……、は? 迷い子?」
意外な言葉だったのだろう、土方副長は目を丸くし、直後怪訝に眉を寄せた。
「んなの、迷子石(尋ね人専用の掲示板の役割をしたもの)に札貼って後は奉行所にでも任せときゃいいだろうが」
全くもってその通り……なのだが。
「その娘、見た目こそ我々と変わりませんが、異国の形姿をしております」
次に発した言葉に、副長はぴくりと眉尻を動かした。
「……ふん」
不敵な笑みを浮かべて。
「で?」
「近頃攘夷の言葉を隠れ蓑に異国と繋がる藩もあると聞きます。まぁそのような輩がこの京で堂々と姿を晒すとは思えませんが、念の為暫く監視下に置いた方が良いかと」
眼光炯炯、緩やかに口許に弧を描くその人に押し負けせぬよう、心胆を据えてその眼を見つめ返す。
一瞬か、数瞬か。
揺らめく灯りだけが場を包み、どのくらいの時が経ったろうか。
低い声音が大気を震わせた。