【完】山崎さんちのすすむくん
監察の仕事とは。
隊内において隊士達の動向を監視する役目である。
隊規を破る者がいないか、間者(スパイ)が紛れていないか、裏切りを働く者がいないか。
平時は屯所内にて主にそれらを見張る。
有事には目付役として隊に同行し、個々の活動を記録、功績等を報告するのが役目だ。
まぁそういった俺達と言う人間が、屯所内を堂々歩くことで、邪な考えを起こさないようにする、という抑止の役割もある。
勿論、俺もあえて気配を隠さず屯所を回ったりもする。
けれども副長付である俺は、乱破であることを活かした屋根裏からの密やかな監視、という特殊な任も仰せつかっていた。
それに不満などない。寧ろ喜ばしいことだと思っている。
……けど、それ故に俺がこん屯所でじわりじわりと広まり始めたとある流行に真っ先に気ぃ付く羽目になってしもたんもまた、事実。
それは、天井板の隙間から細い光が差し込むだけの狭い屋根裏を移動中のこと。
「……ふふふ、こんなところにいたんだね馬越くん」
思わず身の毛がよだつ、ねっとりとした声が真下の部屋から聞こえてきた。
い、今の声はもしかして……。
全身を激しく粟立て、むず痒くなった首の後ろをぽりぽりと掻きつつ、そっと下に意識を巡らせる。
まぁ声の主はあれしかおらんけど……。
げんなりしながらも、下の二つの気配の動きを待つ。
すると、まだ声変わりして間もなさそうな馬越と呼ばれた青年のものであろう震えた声が発せられた。
「や、あの、その……武田助勤っ……!」
やっぱり武田観柳斎さんかい。