【完】山崎さんちのすすむくん
気色の悪い猫撫で声(に聞こえるんは俺だけなんかもしれんけど)で上役に媚を売る、少々……もっそい気に食わん男。
本来やったら監察として、個人に対してこないな先入観は持ったらあかんねやけど、こいつだけはしゃーない、堪忍や。
無論、任務の際はきっちり切り離して考えてるつもりやし。
……けど馬越くん言うたらぺーぺーのわっかい平隊士やん。
なんでまた……?
妙な違和感を覚えた俺は、眉間に皺を寄せながらも耳をそばだてた。
「ふふふ、怯えた顔も愛らしい。某は其方に出会って漸く目覚めたのだよ衆道に! さぁ二人で未知の世界に繰り出そうではないか!」
ことを後悔した。
……て! あかんあかん後悔しとる場合やない!
明らか嫌がっとるやないかいっ! 目覚めるな繰り出すなっ!
「成敗っ!」
即刻部屋に飛び降り、思わず漏れ出た言葉と共にその首筋へと手刀を落とす。
「はぅ……ん……」
これまた気色の悪い声音を残し崩れ落ちるようにがくりと膝をついた武田(敬称略)の陰から、顔面を蒼白にした馬越くんの姿が現れた。
まだ育ちきっていない細い体、長い睫毛に大きな瞳、ぽってりとした赤い唇が女子を思わせる、中々整った顔立ちの青年だ。
「……あ……と……山ざ……」
恐怖からか、突然降ってきた俺に驚いているのか、はたまたその両方か。
壁にへばり付いて固まる馬越くんを安心させる為に取り敢えず微笑む。
「大丈夫ですか?」
「あ……はい、……何とか。あの、有り難うございます」
ようやっと意識がはっきりとしてきたのか、頬をひきつらせながらも笑みを浮かべた馬越くんから視線を足元へと移す。
白目をむいて倒れる武田に。
……あかん、なんかもう見ただけでさぶいぼがとまらんわ!