【完】山崎さんちのすすむくん

最近あいつの様子が可笑しかったんはその所為か?


……や、ちゃうな。それやったら度胸試しん時みたいにぶつくさ言うてくる筈や。


もーなんかようわからんけどいつまで経っても拗ね方が餓鬼臭いねんから……。



「兎に角、この事は副長にも通しておきます。隊内の風紀を乱されては困りますから。あまり酷いようでしたらまた言って下さい」

「あ……、はい」


気持ちを切り替えようと溜め息を一つ吐き出して、監察としての言葉を伝える。


安堵と不安が入り交じった表情を浮かべた幼さの残る青年に、俺は改めて僅かに口許を緩めた。


「貴方も新選組の隊士でしょう? 上役にたてつけとは言いませんが、道理にもとることに拒否する強さは持った方が良いですよ」

「はい、すみません……」


ん、中々素直。これは良し。


「ではもう行ってもらって構いません。武田……助勤は四半刻もすれば起きるでしょうから心配無用です。あと、全ては私が勝手に目撃しました。貴方は告げ口したなど思わず堂々としていれば良いですからね」


己の口に人差し指を当て、少しだけ悪戯っぽくにっと笑えば、瞠目した彼は漸くは安心したように微かな笑みを見せた。


障子の向こうに遠ざかっていく気配を確認し、俺もまた屋根裏へと戻る。



しかしながら、この男所帯に一度芽生えてしまった男色の流れは止まらなかった。


それは今まで興味がなかった連中にまで風邪のように広まっていき、まるである種の流行り病のようにも思えた。


段々と人目を憚らなくなっていくそれに近藤局長も苦笑いする始末。



これが、後々大きな問題の火種となることをこの時はまだ、誰一人として知る由もなかった。
< 154 / 496 >

この作品をシェア

pagetop