【完】山崎さんちのすすむくん






気が付けば暦は五月に入り、朗らかな気候もそろそろ終わりを迎えようとしていた。


どこまでも続いていそうな青い空の下、色を深くした草木達が耳に心地よい音をたて、風にそよいでいる。


眼下に広がるのは美しく整えられた碁盤の町。


そして、


「うわー凄ーい! いい眺めーっ!!」


隣には額に汗を滲ませた夕美の姿。


此処は北大路のすぐ側に位置する船岡山。山というには少々低いが、京の町を一望出来る気持ちの良い場所だ。


今日は初めて夕美と暇を合わせ、少し足を伸ばして此処まで来た、のだが。


「……一先ずどっか座ろか?」

「は……はい……」


半刻程歩き詰めだった夕美は、眺望の感想を叫んだところで体力の限界を迎えたらしい。


膝に手を置き、肩で息をする夕美を近くにあった適当な岩に腰掛けさせ、水筒(スイヅツ)を手渡すと慎ましくない飲みっぷりは相変わらず。


それが本能のままに動く犬猫のようで。


なーんか、和むねんなぁ……。


たまーに耳も見えるし。なでなでしたら喜ぶし。なんや昔近所におった犬っころ思い出すわぁ。


「ぷはーっ! ……何笑ってるんですか?」

「やー別にぃ?」


林五郎もあれからずっと素っ気ないまんまやし、何となく屯所も可笑しな空気やし。


まぁたまにはこんな時間もないと息詰まるわ。副長からもあんま自分を追い込むなて言われとるしな。


なんて、少しばかり鬱々とした気持ちを振り払うように俺はくっと口角を上げた。


日は間もなく天頂に差し掛かろうとしている。


「ほなま、飯でも食おか」
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