【完】山崎さんちのすすむくん
途中で買った握り飯を膝に広げ、二人で食べる。
日当たりが良い所ではもう暑いくらいの今日は、木漏れ日揺れる木陰が気持ち良い。
「へへ、何か良いですね、こーゆーの。なんか……デートみたい」
然程大きくない岩に背中合わせで座る夕美が、尻すぼみにぼそりと呟く。
飯を頬張ったまま喋らんくなったんは良い成長やけども。
「でぇとて?」
「あーやー何でもないです! のどかでいいなーって思って!」
先の世ではこんな日ぃをそんな風に例えるんやろか。
何となく焦ったような夕美の気配にそんなことを思いながらも、柔らかく頬を撫でていく温かな風は確かにのどかで。
「まぁ……せやなぁ」
ついと、思い出す。
琴尾との日々を。
あまりに長かったあれとの平穏は、今の俺を形作るものだから。
無意識に思い出しては勝手に傷口を抉っていた時からすれば、随分と穏やかにいられるようになったと思う。
俺の一部であるそれを消すことは勿論出来ない。
けど、受け入れて、一緒に生きてくことは出来る……か。
キラキラと揺れる木漏れ日を眺め、仄かな塩気の白米をゆっくりと咀嚼していれば、背中に夕美が凭れかかってきた。
「ん?」
「へへ、休憩っ」
琴尾を思い浮かべていたからだろうか。
甘えたような声音と、背に感じる温もり、そしてその纏う空気が。
…………似とる。