【完】山崎さんちのすすむくん


面と向かってへんからやろか?


こうして気配だけを感じてみたら、こいつのそれは琴尾の纏っとったもんによう似てる。


なんかこう……ほわっとして、ふにってして、ほよんってした感じ。


何で今まで気付かんかったんやろ……こいつこんな気配やったっけ?


ちっこうて、いっつもにこにこして、たまに抜けとって。


そういやそんなとこもよう……似とる。



…………て、何考えてんねやろ、俺。


こいつの豪快さは琴尾にゃ真似でけんわ。顔かてちゃうし。


「ねぇ烝さんっ」


……呼び方も、ちゃう。


その声につい弾かれたように跳ねた心の臓を落ち着けようと、俺は唾を一飲みし。平静を装って言葉を返す。


「なんや?」

「ご飯食べたらどうしましょー?」


……こんあと、なぁ。


今日は夕美の『ちょっと遠く』という希望で、折角だからと京を見渡せる此処に連れてきたのだが。


けど体力なさそやし、あんまこっからうろちょろせん方がええな。


思考を巡らせていれば、内に立った小さな波紋も落ち着いていく。


「んー鹿苑寺と今宮さんでも彷徨いてみるか?」

「ろく……? まぁお任せします!」

「ほな、早よ食うて此処をぐるっと回ってから行こか」

「はいっ!」


矢鱈返事の良い夕美からは、楽しんでいるのがわかりやすく伝わってくる。


……うん、こいつはこいつや。


ふっと小さく笑みを溢し、俺は残りの握り飯を口へと放り込んだ。
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