【完】山崎さんちのすすむくん
「やけに庇うじゃねぇか」
くくっと喉の奥で小さく笑う土方副長はどこか楽しそうだ。
「……そう言う訳では」
「まぁいい、その件についてはお前に一任する。判断出来るまで動向を監視しておけ」
「承知致しました」
胸を撫で下ろすと同時に沸き上がる罪悪感も否めない。
が、取り敢えずのところは何とかなった。
「で、何処に置くんだそいつぁよ? この場にいねぇっつう事は此処に置く気はねぇんだろ?」
煙管を揺らして、彼は言う。
いつもながら話が早くて助かる。
「……以前」
「四条の長屋を使え」
俺の言葉を遮って、ぴしゃり言い放たれる。
「どうせ探索用の空き部屋だ。お前の口利きで借りたもんだしな。それに」
と言葉を切った土方副長はゆったりと煙管をくわえ。
「……そこよりは良いだろうよ」
緩やかに紫煙を吐いた。
……やっぱり凄いわこの人は。俺みたいな下の人間のこともきちんと考えてくれる。
じわり温まる気持ちを抑え、俺は頭を下げた。
「御高配賜り有難う存じます」
「まぁ、此処で俺が詮議してやっても良いんだが。どうだ?」
妖しげな笑みでのそれが何を指すかは言うまでもない。
「まだ子供ですよ。それもあって置いてきました、此処は狼の巣窟ですから」
「はっ、違いねぇ」
カン、と灰が落とされ。
退出の頃合いを見た俺は、ではと爪先を立てた。
刹那、土方副長の鋭い眼が真っ直ぐに俺を射抜き、おもむろに片口が上がる。
「……惑うなよ」
全く……この人はどこまでわかっておられるのか……。
苦笑いしそうになる顔をどうにか無表情に努める。
「無論です。まぁ……しなければ迷うことはありませんから。ご安心を。では失礼致します」
副長の密かな趣味である発句の一文を引用し返答すると、俺は手っ取り早く天井へと退室した。
「っ!? いつ見た!?……」
……そんな繊細な一面を持つところも、割かし尊敬している。