【完】山崎さんちのすすむくん
そっと体を離せば、何故か夕美は顔を赤くし、力一杯ぎゅっと目を瞑って固まっている。
……? あ、もしかして苦しかったんか?
口を塞いでいた上に、凭れかかるようにその体を壁に押し付けていた訳で。
息苦しさを感じていても可笑しくない。
「ちょ、大丈夫かいな?」
「へっ!? ぅわわわっ!?」
「ぶっ」
慌てその肩を掴んだところで、はっと目を見開いた夕美がこれまた慌てた様子でその両の掌を俺の顔面に張った。
目の前が手に覆われた状態で沈黙が俺たちを包み。
ようやっと風に揺れる木の葉の心地よい音が聞こえた。
「……何すんねんワレ」
「や、その、だって、ち、近いからっ! ……ご、ごめんなさいっ」
近いて。自分かてさっき休憩や言うて凭れてきとったやんか。
とは思うものの、可笑しなまでにあわあわと慌てふためく夕美を見ていると張り詰めていた分、不思議と和やかな気持ちになる。
「そらすまんかったな。苦しなかったか?」
「はっ、はいっ!」
ぽんぽんとその頭を叩いて問えば、未だどもった言葉が返ってくる。
つい頬が緩んで話を終わりにしてしまいそうになるが、そういう訳にもいかない。
さっきの話をこいつも聞いていたのだから。
少しだけ気を引き締め、その目を見つめた。
「さっきの連中の話……何のこっちゃわかったか?」
こうなりゃしゃーない、正体明かして黙っとってもらうしかないか……。
と、どこか気落ちしながらその答えを待った。