【完】山崎さんちのすすむくん



柔らかな光が障子を通して差し込む屯所の一室。


「……まだだな、踏み込むにゃまだ一歩足りねぇ」


俺からの報告を聞き終えた土方副長が、眉間の皺を深くし呟く。


しかしすぐ様不敵に口角を吊り上げ、ニヤリと俺を見据えた。


「だが有力な情報だ、よくやった。早速諸士調役全員で裏取りにかかれ、間違っても気付かれんじゃねぇぞ」

「はっ、承知致しました」

「こいつぁ京で名を上げる絶好の機会だ。くくっ、……面白れぇ」


こういった時の副長は実に楽しそうだ。


元来喧嘩師であり、幼い頃バラガキと呼ばれた性分は今も健在らしい。


強気に口許に弧を描かせ目を細めるその人の頭の中では、あちらをやり籠める為の様々な思案がなされているのだろう。


全く以て頼もしい。


「ではすぐに監察にあたっている連中に召集をかけましょう」

「特に桝屋に出入りしてる奴を徹底的に探るよう伝えろ」

「承知」

「逢引き中に悪ぃな」

「違います」


急ぎ立ち上がろうとしていた爪先が固まる。


「船岡山なんて一人で行くような所じゃねぇだろ。総司の奴も『絶対女がいますよ』つってたぞ」


沖田くん……まぁなんかもうあん人はええわ、うん。


「確かに一人ではありませんでしたが……」


あれはそんなんちゃうし。


とはいえ、あの時の迷子とです、と言うのもどこか憚られる。


何故そこまで面倒を見ているのかと問われれば、それはそれで答え難いからだ。


表情なく言葉に詰まる俺に、副長は小さく鼻で笑った。
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