【完】山崎さんちのすすむくん
再び夜の町を急ぎ進む。
障害の少ない屋根の上。
夜だからこそ通れる近道である。
碁盤の目に敷かれた京の通り。その整然と並ぶ様は上から見れば殊更美しい。
仄かな月明かりに照らされる瓦屋根の上を、俺は音もなく突き進んでいった。
けれど。
「……寝とんかーい……」
例の空き家に帰りついてみれば夕美はかいまきにくるまってスヤスヤ気持ち良さそうに眠っている。
「待ってます言うとったやないか」
と小声で突っ込んでみるが、あどけない寝顔を見れば不快な気持ちは起こらない。
まぁ……しゃあないな。
仮にもこいつは一度死にかけている。水の中に居たお陰で体力も相当奪われているだろう。
……取り敢えず飯でも食うか。
持ってきた握り飯を頬張りながら漸く俺は大きく一息ついた。
『私、未来から来たんだと思います……多分』
……未来、なぁ?
正直、まだ信用した訳じゃない。そう簡単に信じられる話でもないのだから。
土方副長に言ったことも十二分に有り得ると思っている。
ただ……こいつの様子を見ているとそれが完全な嘘だとは決め付けられなかったのもまた事実。
しかしながらあまり帰屯が遅くなっても困る。故に詳しく聞くのは後で、と此処に置いておいたのだが……。
「ま、明日や明日」
幸い取り急ぎの仕事もない。
全ては話を聞いてからや。
最後の一口を口へ放り込み、取り敢えず布団代わりにと持ってきた綿入りを被って俺は部屋の隅にと横になった。