【完】山崎さんちのすすむくん
「……ふぅ」
背負っていた薬箱を地面に置き、その上にそっと腰を下ろす。
朝から薬の行商として町を回り、今日もそれなりに売れゆきは上々だった。
流石俺。
なんて、少しばかり自分を誉めてみるもこれはあくまで仮の姿。
新選組 諸士調役兼監察、
それが俺の本来の仕事である。
時に敵の動向を探ったり、時に身内の様子を窺ったり。
基本裏方の仕事であるけれど、瞬時の判断力や的確な見極め、更に自分の身を守れるだけの手技や駿足なども必要とする、とてもやり甲斐のある仕事だった。
それに、平隊士から異例の早さで俺をそんな重要な役どころに置いてくださった副長の為にも頑張らなければならない。
……のに。
凍てつくような寒さの中、空は何処までもどんよりと濁った色をしていて。
川は昨日降った雨で水嵩が増え、ドウドウと荒っぽく濁った水を湛えている。
こんな日はどうしても心が沈む。
思い出したくない過去を思い出すから。
顔が歪むのを感じながら、静かに目を閉じる。
──『烝ちゃん』
いつまで経っても色褪せない声が脳裏に響いた。
そんな時だった。
「……む……ちゃ……」
水音の合間に、声が聞こえた気が……した。