【完】山崎さんちのすすむくん
「ごっくん! それはですねっ! 町並みが違うんですよ。ビルもないし、道路も土だし、電柱も電線もないし、車も走ってないし! こんなの、まんま時代劇の世界です!」
「お、おう?」
人差し指をたて、ずずいと前のめりになって何やら一所懸命に語りくるが、今一さっぱりだ。
「あと文久っていうのはよくわかんないんですけど、少なくとも私がいたのは六月でした」
「六月?」
ごくりと喉を鳴らし茶を飲んで夕美は更に続ける。
「はい。それに烝さんはちょんまげじゃないから着物なのも単純に京都だからとしか思ってなかったんですけど、外出たら皆着物でちょんまげだし日本髪だし! こんなのタイムスリップしたとしか思えませんよ!」
「たいむ……?」
あかん、こいつの説明聞いても意味のようわからん言葉ばっかで益々わからん。
「てか丁髷(チョンマゲ)て! 俺は老けてる言うてもまだそないな年ちゃうぞっ。髷を結うてへんのはまぁ理由があんねや」
「ちょんまげと髷って何か違うんですか?」
老けてるってとこはさらりと無視かい。ちょっぴり寂しいやん。
って……本気で知らんのか?
「髷にも色々あるんや、丁髷言うたら髪の少のうなったじいさんがしとるやつのことやな」
「へぇー全部ちょんまげだと思ってました」
俺の説明を目を輝かせて聞いているこいつはやはり演技をしているようには見えない。
大抵の人間は人は嘘をつく時は何かしら揺らぎが表面に出るもの。
んでもってそれが顕著に現れんのは目ぇやねんけど……。
こいつの目には偽りがない。
まさかほんまに……?
「……仮にそれがほんまやとしてや、どないして来てん?どんくらい先からや?お前はこの後何が起きるんかを知っとんか?」