【完】山崎さんちのすすむくん
花冷えする夜。
その澄んだ空気を突き抜けるように届いた言葉に、俺の身体は動けなくなった。
……俺が、勝手に思って……?
違うと、私利私欲なんかじゃないと叫びたいのに。
喉がねっとりと何かで貼り付いたように声が出せない。
だって琴尾は……琴尾はっ!
「おめぇの嫁さんは自分の為に亭主が人を殺して喜ぶような女か? 首を斬られることになってまで仇を討ってくれと願うような女だったってのかよ?」
それは、頭を殴られたかのような衝撃だった。
…………ちが……う。
琴尾は……いっつも笑顔で、自分のことより周りを……俺を、心配して……。
誰よりも……優しかった。
「……違ぇんだろ? おめぇの悔しさはわかる。だがな、仇討ちなんて止めとけ。んなことしたって誰も幸せにゃならねぇ、憎しみは悲しみしか生まねぇんだ。おめぇが死んで、誰が喜ぶ?」
もう、男の目は見られなかった。
反論など出来ない。
出来る訳が──ない。
それでも頭と感情は同じ様には動いてくれず、内に渦巻く様々な想いを堪え俯く俺に、男がまた言葉を紡いだ。
「おめぇのその想い、この町を守る為に使ってみねぇか?」
………何を。
ゆっくりと、顔を上げる。
そこには真っ向から俺を捉える眼があって。
「どうせ命を捨てる覚悟なら俺達と共に来い。おめぇみてぇな思いをする奴を一人でも減らしてやれ」
そう、言い放った。