【完】山崎さんちのすすむくん
長州の残党を追い、天王山や大坂へと足を運んだりとバタバタとした日々が暫く続き。
気が付けば彼岸を目前とする時分になっていた。
それでも湿気の籠った盆地の残暑は中々に厳しい。
……あっつぅ……。
眩しさと暑さについ半目で前を見据え。
麻の着流しに身を包んだ俺は、手にした盆を団扇代わりに日の差す縁側を歩き進んでいた。
今日は久々の非番。
朝餉を終え、上役御三方に茶を入れた俺は盆を片付けると以前交わしたとある約束を果たす為、町へと出る心づもりだ。
……ん?
勝手場に盆を仕舞い再び縁側を歩いていると、沖田くんが物憂げな様子で庭の隅にしゃがみ込んでいるのが目に入った。
なんや池田屋ん時以来妙にしょぼくれとるけど、討ち入り中に倒れたんそない気にしてはんねやろか。
子供やないしすぐ立ち直る思とったけど流石にもう二月やしなぁ……しゃあない、ちと声でもかけてみよかぁ。
沓脱石(クツヌギイシ・縁側の上がり口に置く石)にあった草履をつっかけ庭に降りるとその背に近付いていく。
「何を見てるんですか?」
「っ、わぁ!?」
地面を見つめるその視線の先を覗き込みながら声をかければ、沖田くんはピクリと飛び跳ね尻餅をついた。
「あ、山崎さん」
「すみません、驚かせてしまいましたか。珍しいですね、気配に気づかないなんて」
「あ……はは、ちょっと蟻に夢中になり過ぎてました」
後ろ手を付いたまま苦笑いを浮かべ、逆さまに見上げくる彼もまた……。
かいらしな、おい。