【完】山崎さんちのすすむくん
俯き考え込んだ夕美。
俺は冷めた茶を啜り、その答えを待った。
少しの反応も見逃さぬよう、目の前のそいつに意識を集中して。
僅かな間を置いて、夕美はおもむろにそのくりくりと丸い目を俺に向けた。
「……来たのは川に落ちて、気付けば此処にいました。それ以上はよくわかりません」
僅かに憂いを宿すその瞳はやはりそれが真実のように思える。
「あとはその、ごめんなさい、私日本史苦手であんまりよくわからないんですけど……えと、今は江戸時代ですよね? 西暦ってわかります?」
「江戸時代? ……まぁ大樹公(征夷大将軍)は江戸に居られるけども……せ、性歴なんて言えへんわっ」
可愛い顔して唐突になんちゅー過激な発言を!!
「そっかー確かにわからないなら言えませんよね。でも江戸があるってことはやっぱ江戸時代かぁ……徳川なんとかさんが征夷大将軍? とか言うんでしたっけ」
「家茂さんや、家茂さん」
なんとかさんて! 適当過ぎやろ!
てか俺の性歴聞いた意味は何や!? あまりに軽ぅ流されるとそれはそれでほんのり悲しいわ。
「……うーっ、ごめんなさい! やっぱりわかりません! あの頃って同じような名前多くて特に苦手だったんですよね。でも百年以上前な筈です……あ! 鞄に未来から来たって証明出来るのが入ってました!」
「百年!?」
と、驚いた俺を放置して夕美は側にあったかばんとやらをガサゴソと漁り出す。
「うわー……ぐちゃぐちゃ。うぅ酷い……でも……あ、あったっ! ……よしイケる! 防水機能初めて感謝!」
独り言の多いやっちゃな。
「なんやそれ?」
嬉しそうに弄るのは桃色をした四角い何か。
「ふっふっふっ、これぞ文明の利器! 携帯です!」