【完】山崎さんちのすすむくん
そんなこんなで漸くやって来た京の大通り。
ふむ。
小間物屋特有の香の薫りに包まれながら、俺は目の前に並ぶちりめんの小袋を眺めていた。
……どんなんがええんやろ。
あの時の夕美との約束を果たす為に。
前ん時はあんなけうろうろして決めとったしなぁ、割かし好みにうるさそぉやな。妙なん選べへんなこりゃ。
せやけど人のん選ぶなんてごっつ久々やし若い女子の選びそーなんとかよーわからんねんけど……。
むむむと眉間に皺を刻ませて、とりどりに並ぶ匂袋に視線を落としていれば、ふと見知った気配が店内に入ってきた。
ひくり、こめかみが引きつる。
勿論向こうもすぐに気がついたようで。
「あれー? 山崎さんじゃないですかー」
そんな声が掛けられた。
あかん、落ち着きや俺。
そう心で独りごちて後ろを振り返る。
「これは藤堂助勤、こんな所でお会いするとは思いませんでした」
「それはこっちの台詞ですよっ! お一人ですか? 山崎さんがこんなとこに来るなんてなんか意外ですー」
そこに立っていたのは、一見腹黒さなど微塵も感じさせない無垢な笑みを浮かべた藤堂くんだ。
「ええ、まぁちょっと頼まれものを」
「へぇーまた詳しく教えてくださいね! 僕は連れがいるので今日はこれで! 行こっ、ともえ」
「あ、藤堂助勤」
誰が教えるかいっ!
なんて内心突っ込みつつ、後ろにいた女子に声を掛けたその人を呼び止める。
『はい?』なんて小首を傾げたその仔犬のような頭を撫で回したくなる衝動を抑え、俺は小声で呟いた。