【完】山崎さんちのすすむくん
「沖田助勤をからかうのは止めてくださいね」
あくまでも冷静に、無表情に。努めて業務的に伝える。
流石にすぐ何のことか理解したようで、一瞬どこぞの悪代官も顔負けなどす黒い笑みを浮かべ、えへへとのたまった。
「やだなぁ、僕は山崎さんの秘密を守ってあげただけですよぅ。でも総司ってあんな顔して意外と可愛いでしょ? 惚れちゃ駄目ですよっ」
誰が惚れるか阿呆っ!
俺の瞳に冷たいものが宿ると、藤堂くんはふわりと無垢な笑みを残し、女子の手を引いて店の奥へと歩いていく。
その仔犬の尻尾のように揺れる髪を見据え、俺は目を細めた。
……たく、かいらし顔して腹黒いやっちゃで。まぁ素性を黙っとってくれよぉしてくれやったんは素直に嬉しいけどな。
俺が副長についていくと決めたあの夜、共にその場にいた局長と藤堂くんは俺の過去を知っている。
島田にはかい摘まんで話してあるが、それ以外は乱破であることすら知る者は少ない。
でも。
別に乱破なんは知れとってもええ気もすんねんけど。
……なんて、俺も甘ちゃんになったもんやな。前は自分のことなんて話す気ぃにもならんかったのに。
まぁそれだけうちの幹部連中に信用を置いたっちゅうことか。
むず痒い気持ちで頭を掻くと細く息を吐き出し、俺は目の前の棚に視線を戻すことにした。
……が。
「ねぇねぇともえはどれが欲しい? 金子は気にしなくていいしねっ」
「そぉどすなぁ、うちは藤堂はんが選んでくれはるんが一番嬉しおす」
「もぅ可愛いこと言うのはこの口?」
「だってうちのこと思って選んでくれはるんえ?それに敵うもんなんてあらしまへん」
「ふふ、ともえは可愛いなぁ。そんなこと言われたら毎晩お店通っちゃうからね?」
知ってる奴のイチャコラ聞かされるんてなんやめっちゃ恥ずかしんやけどー!