【完】山崎さんちのすすむくん
四条の長屋の一室に着くと、大きな風呂敷包みを部屋の隅へと下ろす。
「よっこいせ、と」
「ちょ、烝さんじじくさっ」
……。
どーせ三十路やっちゅーねんっ。
しゃーないやん、只の口癖や。
「お前さんの珍妙な荷やら服やらも入っとんやけど?」
「う、有難うございます……」
ちくりと棘を含ませ言い返せば案の定夕美は大人しくなる。
まぁ人通りの多い四条をあの格好で歩かれるんはちぃっとばかり目立つからな。
そうなれば俺の今後の隊務に支障が出る可能性がある。
故に着替えてもろた訳や。
「そー言えば、色々見るのに夢中で何も思わなかったんですけど、この着物どうしたんですか?」
「俺のや」
「え、だってこれ女物じゃ……は!」
「は! ちゃうわい、変な想像すな阿呆。仕事に使うねん」
「何で変な想像ってわかるんですか……」
「目は口程にものを言うんや」
なんとか見た目の違和はなくなったが中身の方は相変わらずだ。
「この後はどーしよかー。取り敢えず町でも見て回るか?」
荷をほどきながら、物珍しげに部屋を見回る夕美に声をかける。
すると何故か夕美は遠慮がちに俺を見た。
「んー……それよりあの……ちょっと聞きたいんですけど……トイレとかお風呂ってどうなってるんでしょう?」
風呂はわかるけども。
「……といれ?」
「えっと、お手洗い?」
「井戸か?」
「そうじゃなくて、えぇと……」
歯切れ悪くもじもじと言葉を探すその様子は……。
「……厠か?」
まさに子供のそれやろ。