【完】山崎さんちのすすむくん
凭れた壁の向こうを打つ音が聞こえた。
ハッとして外へと意識を向ければ、そこにある気配は二人分。
一つはよくわからないものの、もう一つはよく知る男のもので。
……なんでんなとこから。
俺は思わず眉間を寄せた。
隣を見れば山南さんは僅かに目を見開いてじっと畳を見つめている。
さっきまでとはガラリと変わり、どこか動揺した雰囲気のその人に浮かぶのは一つの推測。
「俺が」
それでも一応監視役としてここにいる者として、俺は近くにあった窓を開けた。
未だ冷たさを残す風が入ってくるのと同時に目に入ったのは何故か串に刺さった草団子。
「……永倉助勤、何です、これ」
「え、袖の下。これやるから頼むっ、山南さん、出してくれ!」
えらい堂々とした袖の下やなおい。袖の上出まくりやん。
ちゅーかなんで袖の下に団子やねんっ! 俺は童か!
喉まで出かかったそんな突っ込みを何とか堪え、俺は格子の隙間から手を伸ばしてそれを受け取る。
その逞しい体の後ろに、一昨日の晩に見た時よりも憔悴した女子の姿を捉えたからだ。
「前の廊下にいます」
「山崎……!」
ぱあっと顔を明るくした永倉くんに口端でそっと笑い、俺は隣に座る山南さんに視線を向けた。
「総長」
そう声を掛けても俯いたままのその人に仕方なく膝をつき、ただじっと顔を見つめる。
すると山南さんはその視線から逃れるように静かに瞳を閉じた。
「……別れは済ませました。もう、言うことはありません」