【完】山崎さんちのすすむくん
その様子はどことなく拗ねた子供のようにも見える。
……皆、自分の事になったらあれやねんなぁ。
そんなことを思いながら俺は嘆息混じりに口を開いた。
「貴方は俺に一人の人として話してくれました。ですからここからは俺個人の言葉で失礼します。
あんたはんの覚悟は立派や、先逝くもんとしちゃそれでええんかもしれん。けどな、残されるもんの気ぃもちったぁ考えてみ? それでも会いとぅて此処まで来はったんやろ、最後にもっぺん顔見てちゃんと言葉交わしたりぃや」
会えるんや。まだ話せるんや。
それだけでどんなけ救われるか。
そんな折角の機会を無駄になんかしたら、絶対にあかん。
その俺の言葉が意外だったのか、瞠目してぽかんとする山南さんにニッと口角を上げる。
「三國志の代金や思とって下さい。ほな俺は前でのんびりこれ食うてますよって」
これでもかという程に目を細めて笑い、よっこいせと立ち上がった俺は、肩越しにひらり手を振り障子に手を掛けた。
「……、有り難うございます」
背中に届いた穏やかな声にほんの少しだけ笑って。
俺は後ろ手に障子を閉めた。
同日夕刻。
新選組総長 山南敬介の切腹が執り行われた。
介錯人は総長たっての希望で助勤沖田総司が務め、局長曰くその最後はとても見事なものであったという。