【完】山崎さんちのすすむくん
「安心しぃ、あくまで多いだけで此処等にあんのはちゃーんと別々や。何たって天子様(天皇)のお膝元やさかいな」
ぽんぽんと背を叩いて残りの事実を語ってやれば、またも夕美は顔を赤くし頬を膨らせた。
「……っ! 騙したんですかっ!」
「いや? ちょっと町から離れたら入り込みばっかなんはホンマやで。騙してへんもーん」
俺は無知なお前さんに世の中をちぃーっとばかし詳しく説明してやっただけや。
嘘はついてへんもーん。
……うん、何か久々やけどやっぱこんなノリもええな。
こいつもコロコロ顔変わって中々からかい甲斐ある……。
「烝さんの馬鹿っ!」
「しいいいぃっ!?」
それは、一瞬の出来事だった。
いつの間に手にしたのか夕美は赤い色をした妙なものを振りかざしていて。
見たこともないそれを受け止めるなどと言う選択肢はなく。
俺は咄嗟に避けた、
……のだが。
ぴこっ
それは畳を破ることもなく、気の抜けるような可愛らしい音だけを部屋に響かせた。
「……むぅ、烝さん素早いっ」
土間に立つ俺を夕美は口を尖らせじとりと見やる。
「や……なんやそれ?」
「おもちゃですよ、ぴこぴこハンマー」
夕美がそれで掌を叩くとぴっぴと間の抜けた音がする。
なんやおもちゃか……何でまたそんなん持ち歩いとんねん。やっぱ童やろ。
ちゅかどっから出してん!お前さんは手妻(手品)師か!
……触りたいやんけ。
「ちょい貸して」
「どーぞ」
ぴこっ
「ちょっ、何するんですかっ」
ええなこれ……欲しい……。
取り敢えず頭を叩いてすっきりした俺はぴこぴこはんまぁ片手に夕美を見下ろした。
遊んでる間にも気付けば鍋はふつふつと沸き立っている。
「さっ、頭洗うでぇ」