【完】山崎さんちのすすむくん
猫のように飛びかかってきた沖田くんの腕が首へと絡み付く。
ごろにゃんとじゃれついてきたそれは、残念ながら全くもって可愛くない大きさだ。
「ちょっ、わかりました! わかりましたからっ、重たいです!」
潰れる潰れるっ! 自分俺よかでかいねんから無邪気に体重預けんとってっ!
もぞもぞともがく俺の言葉に構うことなく、その人はぎゅむと腕に力を籠める。
「もー山崎さん大好きですっ」
「おい、そこの衆道二人、絡み合ってねぇでさっさと用意しろ」
絡っ!?
まさかの愛の告白真っ最中に突然後ろから響いたのは、俺の敬愛する土方副長の声。
はっと視線を向けると、楽しげに片口を上げたその人が腕を組んでゆったりと奥に延びる廊下の端に凭れ掛かっている。
なんでまた気配消して見てはるかなっ!
「あの、別にこれはそーゆーのではなくてですねっ」
「そーですね、確かに山崎さんならそーゆーのもありかもしれません」
「そう! あり……」
……あり? あり……。
「ありなんっ!?」
「冗談ですよ。では私は荷を取ってきますね、桜餅の件楽しみにしています。じゃー土方さん、あとは宜しくお願いしますねー」
ぺろりと可愛く舌を出した沖田くんは、春にも負けぬ爽やかな笑みを溢して軽やかに縁側を駆けていく。
一つに結われたその髪が、気紛れな猫の尻尾よろしくしなやかに揺れて。
くつくつと噛み殺すような笑い声が後ろに聞こえた。
……あの餓鬼ゃ覚えとけや。