【完】山崎さんちのすすむくん
その建物に向かい、両手を広げて叫んだのは永倉くんだ。
や、まぁでかいけどもや。んな餓鬼みたいに叫んどってみぃ……。
「るせぇ、騒いでねぇでさっさと荷物運びやがれ」
「あだっ!」
ほれみぃ言わんこっちゃない。……言うてへんけど。
その後頭部に副長の拳骨を食らうのを横目で眺め、俺は荷に手を伸ばした。
「此度の屯所は五百畳もあるそうだな。それを改築ごと無償にさせるとはやるじゃないか」
隣では、変わらず同室となる島田が同じく荷を抱えながら豪快に笑う。
確かに集会所内は元々だだっ広い大広間だったのを、隊士達の部屋として使えるように手を加えてもらっていた。
「まぁ、お上からの達しもあるしな」
そこを全面に強調して坊さんらを言いくるめさしてもろたんやし。
まぁ実はその辺のやり取りも太鼓楼がおまけで付いてきたんも、ほぼ伊東くんの舌先のお陰やったりするんやけど……。
やっ、俺も毎日頑張って付きおうたもん。ちゃんと伊東くんの言葉の後押ししたもんっ。
ちょっぴり虚しくなった心に一人密かに言い訳し、大量の三國志を両手に抱えた。
そして落とさぬようにとゆっくり歩き出したのだが。
……あの永倉くんが、本?
視界に映るあまりに意外な光景に一瞬目を奪われた。
しかしながらよく見れば先に歩くその人をはじめ助勤全員、一部の平隊士、果ては副長、局長までもがゆらゆらと揺れる本の山を抱えている。
……。