【完】山崎さんちのすすむくん
「あの、その本どうしたんですか?」
取り敢えず一番近くにいた原田くんに聞いてみた。
すると、
「あー山南さんに貰ったんだよ。一月程前だったかなぁ、なんか飯ん時に急に沢庵くれっつーからあげたら礼にって。ほら……さ、やっぱ捨てるに忍びないだろ?」
なんて答えが返ってきて。
山南さん……部屋空っぽや思たら皆に押し付けとったんですね。
それは手放すのが勿体なかったのか、形見分けのつもりなのか、単に移転の荷物となるようにしただけなのか。
……うん、全部当たりっぽい気ぃするわ。
枕元立たはられへんよう毎日拝んどこ。
ついと黒い後光が差すその笑みを思いだしてぶるりと身を震わせると、俺はまた歩き出した。
そして、夜。
移転の祝いと花見を兼ねて、久々に屯所内で酒の宴が催されることになった。
「てめぇら腹掻っ捌いてよぉーく聞け! 俺の腹は金物の味を知ってんだぜっ!」
「おぅ死損ね! それは何度も聞いたっての! んなことよりさっさといつもの踊れ踊れ腹踊りっ!」
「るせーパチパチ、これは俺の口上だ! んじゃまー行くぜ! 今日の俺の腹は土方さんだ! 『人の世のぉーものとは見え」
「ぶーーっ!! っ、ごるぁ左之助今すぐ黙れっ!」
「うぉぉっ!? 汚いぞ歳!」
「俺はパチパチじゃねぇ!新八だぁっ!」
今宵もまぁ賑やかなことで宜しいなぁ。
混沌と化した上座を眺め、酒を流し込む。
宴が始まって早一刻。
既に大広間は緩ーい空気が流れていた。
山南さんのあれ以来ちと屯所も沈んどったし、これも心機一転気ぃ入れ替えんのにぴったしやな。
ちゅーか腹掻っ捌いてどーすんねん、死ぬ死ぬ。それ言うなら耳掻っぽじるやろ。
なんて突っ込みながら一人手酌でまったり飲んでいると、何故か廊下の方が俄に騒がしくなった。