【完】山崎さんちのすすむくん
「失礼します」
境内に立つ桜を眺められるようにと開け放たれた障子から現れたのは一人の平隊士。
「皆さん、今日は俺達も余興を一つ用意しました! こいつに皆さんの酌をしてもらおうと思います」
程よく酒が入ったであろう赤い首をしたそいつは、意外とはっきりとした声をあげると、死角となる廊下の向こうになにやら目配せする。
「絶対嫌やっ!」
「いーから行けって!」
「ほらもー言っちゃったんだから出るしかねぇよっ」
……林五郎?
ぼそぼそと聞こえたその声に、何となく嫌な予感が湧いた。
「ほらっ」
「ちょ……!」
ひくりと頬を引きつらせたその時、突き飛ばされたっぽい人影がドタドタと足音を立てて部屋の前へと姿を現す。
「あ」
小さく開いたのは紅い唇。
そこに立つのは萌木色の長着を着、少しだけ伸ばした後ろの髪を赤い玉簪で無理矢理纏めた林五郎で。
「……」
部屋の視線を一身に受けたそいつはピタリと固まる。
そして水を打ったような沈黙が通りすぎたあと、広間は大きな笑いに包まれた。
「りんごー! 似合うじゃねぇかっ」
「う、うるせー!」
「む、是非某にも注いでくれ」
「駄目ですよ、武田さんはお酒飲めないでしょう! りんごくんりんごくんっ、是非とも私にっ」
「は、はい?」
ちょー沖田くん目ぇキラッキラし過ぎやろ……幾らお柚ちゃんに似とるからって惚れたらあかんでほんま。
混沌に揉みくちゃにされた弟に乾いた笑いを溢し、俺は猪口をクイと傾けた。
うん、やっぱあかんわ、乱破なんは兎も角女装は極力見せんとこ。
ちゅかあれや、おんなじ顔の半端な女装はきっついわ。
なんや俺まで恥ずかしやん……。