【完】山崎さんちのすすむくん
まぁそんな林五郎の体を張った余興もあって、益々酒の進んだ春の宴は格別の盛り上がりをみせた。
今日ばかりは無礼講、加えてただ酒がしこたま飲めるというのもあり、加減を知らぬ男達が彼方此方に潰れ転がり。
ちらほらと部屋に戻る人間が現れ始めた頃、そいつは黙って俺の隣に座った。
「……胡座をかきな、褌丸見えやで」
仮にも女子の格好してんねんからそれはないやろ。
「えーやん別に。誰も気にせぇへんし」
「気にする奴もおるで、ほら」
その赤い唇をぶすっと尖らせた林五郎に、顎で一人の男を指してやる。
ぎょろりと充血した目で林五郎の股を凝視する武田さんを。
「ひっ!?」
流石に恐怖を感じたっぽい林五郎が慌ててちょこんと正座する。
阿呆め。
その様子が面白くてつい小さく吹き出した俺を見ると、そいつは拗ねたように頬を膨らせ視線を逸らした。
もーそーゆー餓鬼くさいとこは変わらんねんから。
幼い頃から変わらぬその様子に僅かに心を和ませる。
だが。
こない近寄ってきたっちゅうことはまた何かしら話でもあるんやろな。
そして、それは恐らく夕美のこと。
何となく緊張した腹をほぐそうと酒を煽ると、俺はそれが話し始めるのを待った。
「なぁ」
ぽそり、畳を睨んだままそいつが呟く。
「ん?」
「……あれから夕美に……なんか、言われた?」