【完】山崎さんちのすすむくん

一人密やかに琴尾に言い訳していれば、隣からじとりと呆れた視線が突き刺さる。


「……顔に出とった?」

「うん、普通に変な人やった。お兄ってあれやんな、昔っから自分のことになったらあかんよな」

「……かもしれん」


昔からて。俺こいつにそんなん思われとったんや……なんやちょい落ち込むわぁ。


さっきまでの殊勝な弟は何処へやら。


冷たい眼差しで突き立てられた言葉にしょぼくれていると、林五郎は大袈裟に溜め息をついた。


「ほんまお姉も夕美も、こんなんの何処がええんか気が知れんわ」

「……そらすまんこって」


そんなん俺かてわからんし。


思わずムッと口が尖った俺の膳から林五郎が酒を奪う。


「あーなんやあほらし、野暮天はどこまでも野暮天やなっ」


何故か突然妙にふて腐れた様子のそいつは直接徳利に口を付け、一気に酒を煽った。


「ぷはっ。兎に角や! 俺ぁ構へん言うたさかいにな! お兄もいつまでもうじうじしとらんと早よう男みせたれやこんど阿呆っ!」


ダンッ、と徳利が叩きつけられ、膳に乗った皿が跳ねる。


あかん、なんやよぅわからんけどイってもぉたでこの子。


「なぁあんま飲み過ぎたら」

「煩いなぁええねん好きに飲ませろやっ。ちゅーか俺がこないな格好させられたんもお兄が池田屋ん時女そ」


酒を止めようとした俺に食って掛かってきたそいつの首に素早く手刀を落とす。


いらんことでっかい声で叫びな阿呆。ばれてへん連中にまでばれてもーたらどないすんねんっ。


はたと膝に倒れ込んできた林五郎をフンッと見下ろし。


悪酔いするお子ちゃまはねんねの時刻やな。


ちょっぴり懐かしい気持ちでそれを肩に担ぐと、俺もまたこの酔いどれ共の溜まり場をあとにすることにした。
< 291 / 496 >

この作品をシェア

pagetop